2017年9月18日月曜日

トロント映画祭観客賞の結果について思ったこと

今年もオスカーの季節が近づいて参りました。例によって、最初のゴングを鳴らすのは秋の一連の映画祭。ヴェネツィアから始まり、テルライド、トロントと続く流れの中で、この秋の注目作が浮上してくるのですが、今年はちょっと異質で読めない。

毎年だいたいトロント映画祭には参加するのですが、今年はお休みしてヴェネツィアのみ、行ってまいりました。様々な弊害により、見たい映画を見られず、去年とは打って変わって不作のヴェネツィア。なんだかなあと思う中で金獅子に輝いたのは、一番見たくて見られなかったギレルモ・デル・トロのShape of Water。サリー・ホーキンスがすごい演技をしていると話題で、それだけでも確認したかったのですが、実際映画もとても良いらしい。これは東京国際映画祭でも上映されるので、そこで見逃さないようにしないとです。

で、こちらのShape of Water がオスカーにおける重要なポジションにいち早く乗ったことは間違いがないのですが、トロントでも評判が良かったようなので、私はこれが観客賞を獲るものと思っておりました。が、結果的に受賞したのは全然違うエンターテインメント映画 Three Billboards Outside Ebbing, Missouri。 正直ものすごく意外な結果でした。

こちらの作品、ヴェネツィアでも上映され、コンペ部門で脚本賞を獲りました。私もこれは見てきたのですが、なんというか、ポリティカリーインコレクトぎりぎりの(というかどう考えてもインコレクト)なセリフもたくさんあったり、主人公の行動や人間性が全然善人じゃなかったり、もちろんこれは問題提起の意味で誇張されている部分が大きいのですが、なんとも言えない気持ちになる映画で。今までに観客賞を獲ってきた「スラムドッグミリオネア」「英国王のスピーチ」なんかと比べると、まあまっすぐ飛んでこないツーシームみたいな作品なんです。今までに見たことのないぶっ飛んだ内容と、演技派揃いのキャスティングで、相当面白いことは間違いないけど。トロントの観客賞と言えば、オスカーでどれだけ本線に残るかのポジショニングを固める意味で非常に重要な位置づけとみなされている昨今、今年の結果は本当に意外で、先が読めなくなりました。しかも次点がポップでスキャンダラスな I, Tonya。こちらは、リレハンメルオリンピック直前のナンシー・ケリガン殴打事件で有名になったトーニャ・ハーディングの人生を、彼女の視点から描いた作品で、直球勝負の感動ものからは程遠い(はず)。これまたあの頃フィギュアスケートに夢中だった年代の私にはドンピシャな作品なのですが、ジャンル的にもトロントで次点になるというのは想定外でした。ま、I, Tonya については未見なので、もしかしたらすごく感動する作品になってるかもしれないけどね。マーゴ・ロビーはかなりの力演らしい。いずれにしても、この2作品がトップ2に輝いたのは本当に想定外で、個人的にこの辺かしらと思っていた、サンダンスで絶賛されたMudbound 辺りが獲るよりは、ずっと面白い結果だったかな、と思います。

これらの作品は今後続々と全米公開されていくわけで、その状況を見守らないとまだまだなんとも言えないわけですが、とりあえず幕開けは波乱で始まった印象の今年の映画祭シーズン。フランシス・マクドーマンドもサリー・ホーキンスもスタジオの強力プッシュがあるだろうことは織り込み済みだけど、混戦と言われる今年の主演女優賞、あとはどなたが食い込んでくるのでしょうか。