2014年4月22日火曜日

エマ・トンプソンがノミネートされなかった理由

みなさん今晩は。大変ご無沙汰しております。前回エントリー、確認したら1カ月以上前でした。何を隠そう、オスカーの話題と言うのは季節ものでありまして、12月~3月の4か月を過ぎると、途端に書くことがなくなるんだな。それに加え、今シーズン最後のスキーで右手の小指を骨折すると言う失態により、思うようにタイプが出来なかったこの1カ月。こういう時こそ、人差し指一本スマホでアップするべきなんでしょうな。

さて、先日ようやく、「ウォルトディズニーとの約束」なる映画を見てきました。この作品、トム・ハンクスとエマ・トンプソンと言う、オスカーがこよなく愛する二人が主演でディズニー社の大親分ウォルト・ディズニーその人が題材の、絶対にオスカー取りたいんです丸出しにも関わらず、見事にオスカーから無視されてしまった作品。何が嫌われたのか、気になってしょうがなかったんです。私としては、このオスカーシーズンに一番期待してた作品の一本だったから。どんだけ出来が悪いんだろうと見に行ったら、とても良い作品でした。

思うに、今回の惨敗は、題材と実際の作品の大きすぎるギャップに尽きると思う。メリーポピンズが出来るまでの秘話、って言われて、トム・ハンクスとエマ・トンプソンと言う顔ぶれを見たら、なんだか陽気で楽しいコメディを連想するじゃないですか。ふたを開けてみると、ものすごく重いんですこの映画。要は、幼少期の悲しい思い出=トラウマに捕われた初老の女がやっと心を開くことを学ぶ話。期待にこたえてくれなかったお父さんへの抑えられない愛情と相反する恨みを乗り越えて、やっと彼を肯定出来た時に彼女は自由になる、って話なんだけど、予告からも、題材からもその暗さは全く想定できなくて、ゆえに見に行く時に期待するものと与えられたもののギャップに、観客は戸惑うわけです。良い話だし、作品自体は悪くないので、見た後の不快感はないのだけれど、映画って、何を期待して見に行くかって言うのが、既にその作品の評価の半分くらいを決めてしまうものなんですよね。この作品を見ながら、「あー、なるほどそういうことね~」と残念になりました。

その映画に何を期待するのかは、往々にしてその作品がどのように宣伝されているか、に左右されるもので、騙しの宣伝によって「思い込み」を誘導され、見終わった後に「すごいアクション映画って宣伝だったけどこれドラマじゃん!」と言うような、完全に騙されたと嫌な気持ちになるのは良くある話。「ウォルト・ディズニーの約束」に関して言うと、それとはちょっと違って、これはもう題材とキャスティングで既にこの話には無理があると言うか。トム・ハンクスもエマ・トンプソンもミスキャストなわけではなくて、二人ともとてもはまっているのです。ただ、この二人と言うことで観客はデフォルトとして「コミカルな映画」を期待してしまい、そこに来て題材がメリーポピンズと言うだけで、もう内容が暗いと言うことは許されない構造になっているので、宣伝がその作品の内容そのままを伝えていたとしても、観客はまさかこの作品が重い作品とは思わないわけです。

アカデミー会員の皆様も、この作品で幸せな気分になろう、と思って見に行ったら、切ない気持にさせられてしまって、なんだか腑に落ちない。消化不良な感覚になっちゃったから、満足感を得られずに、票が集まらなかったんじゃないかな。ちょっと気の毒に思いました。

にしてもエマ・トンプソン、20年前と印象が全然変わらないのはなんででしょう。彼女は92年度の「ハワーズエンド」で各賞を総なめにした末にオスカー主演女優賞を受賞していますが、私はその翌年の「日の名残り」が彼女の最高傑作だと思っています。見てない方は、ぜひご覧あれ。