2017年12月16日土曜日

引退の耐えられない重さ

ダニエル・デイ=ルイスが引退を発表して、何か月になるだろう。

彼は、私が高校一年生の時から思いを馳せてきた俳優である。そして、彼の存在は私にとって、アカデミー賞と密接な関係にある。

私が彼を知ったのは、中学三年生の時だった。おそらく先生に進められてみた「眺めのいい部屋」が最初の作品だったと思う。その頃彼は、「存在の耐えられない軽さ」という作品で日本において大ブレイクし、私の買っていた映画雑誌はこぞって彼を取り上げていた。まだ幼かった私はリバー・フェニックスに夢中で、正直彼のどこが良いのか全く分からなかったことを鮮明に覚えている。

1989年、私が高校に入学した年に彼は、「マイレフトフット」という映画に出演する。そして、1990年3月末に発表された第62回アカデミー賞で見事主演男優賞に輝く。くしくもそれは、私が初めて録画をして見たアカデミー賞授賞式だった。「ラスト・オブ・モヒカン」の撮影中(もしくは撮影準備中)だった彼は、肩まで髪を伸ばし、ほかの誰とも違うタキシードとボウタイで授賞式に現れた。Well, you just provided me with a hell of a night in Dublin...  そんな言葉で彼の受賞スピーチは始まった。そのはにかんだような美しさと、ちょっと鼻にかかった美しい英国アクセントの英語に、私は一瞬で虜になった。それ以来、どこで誰に聞かれても、私の好きな俳優はダニエル・デイ=ルイスになった。そして、それと同時に、俳優の銀幕とは全然違う表情を見せてくれるアカデミー賞に、夢中になった。

その後日本でも「マイレフトフット」は公開され、私も渋谷のシネマライズに足を運んだ。そこにいた彼は、授賞式の華やかなハンサムな男性とは全然違う、髭もじゃの気難しい大人の男性だった。私は初めて、彼の演技のすごさを目の当たりにし、その後VHSでマイ・ビューティフル・ランドレットを見た。この映画の中にもまた、全然違う彼がいた。

アカデミー賞を受賞した後の彼は、続けざまに有名監督の作品に出た。マイケル・マン監督の「ラスト・オブ・モヒカン」は、私にはちょっと商業的に思えてあまり気に入らなかったが、再びジム・シェリダンと組んだ「父の祈りを」はどの角度から見ても非の打ちどころがない名作で、私はこの年ふたたび彼がオスカーを手にするのではないかと期待した。結果、この年1993年度は「フィラデルフィア」でトム・ハンクスが初受賞することになったのだが、私はいまだにこの年のオスカーが一番甲乙つけがたいレースだったと思っている。この年はまれにみる豊作の年で、作品賞も本当に粒ぞろいだった。(受賞したのはシンドラーのリスト)

この頃から私は、ダニエル・デイ=ルイスはそのうち、歴史上一番たくさんオスカーを手にする俳優になるに違いないと思うようになっていった。ほかの誰と比べても、彼ほど優れた俳優がいるとは思えなかったからだ。彼はどんな役をやっても説得力があり、それは毎回全然違うタイプの役柄だった。私は彼の新作が出るたびに劇場に並び、オスカーのノミネーションを待った。

しかし、90年代後半のそんなある日、彼は突然銀幕から姿を消す。なんでもイタリアに行って靴職人になるというのだ。彼の最後の作品は、「マイレフトフット」「父の祈りを」で組んだジム・シェリダンのアイルランド三部作完結編「ボクサー」だった。この作品でも彼は本当のボクサーと同じトレーニングをし、減量をし、役になりきったが、残念ながら作品自体がそこまで秀作ではなかった。

この最後の作品で彼はアカデミー賞にノミネートされず、私は彼を再び銀幕で見ることをあきらめた。その頃には私は映画業界に足を踏み入れており、仕事での目標を「ダニエル・デイ=ルイスに会うこと」と言ってはばからなかったが、その夢はもはや夢で終わるかに見えた。しかし、1999年、彼はマーティン・スコセッシの説得により、銀幕に復帰を決意する。「ギャング・オブ・ニューヨーク」の悪役、ビル・ザ・ブッチャーを演じたのだ。

ギャングの撮影は1999年に始まり、2001年のはじめに終わった。ローマのチネチッタで行われたこの撮影は、予定していた撮影期間を大幅に遅れ、製作費も膨れ上がったと聞いている。公開は2001年末に予定されていたが、2001年9月にアルカイダによるテロが実行され、この作品の最後にこのワールドトレードセンターの映像が含まれていたことや、ニューヨークが舞台の暴力的な作品ということが理由で、公開は翌年に延期された。もしこの作品が2001年に公開されていたら、アカデミー賞の結果はどうなっていただろう。「ビューティフル・マインド」は作品賞に輝いただろうか。今となっては考えても仕方のないことだが、このビル・ザ・ブッチャーの役でDDLは、主演男優賞にノミネートされる。あまりの圧倒的な存在感に、明らかにわき役(=敵役)の彼の方が、主役のディカプリオよりも脈があるだろうと踏んだミラマックス(=今話題のハーヴェィ・ワインスタイン)が判断した結果だった。2002年度、第75回のアカデミー賞の主演男優賞は、結果的に最年少受賞のエイドリアン・ブロディに行く。前年の主演男優賞(デンゼル・ワシントン)が悪役での受賞だったので、2年連続で悪役が獲るのは良しとされなかったとか、そもそもわき役なのに主演男優賞にノミネートされたのが間違いだとか、DDLが受賞しなかったわけはいろいろささやかれたが、いずれにしてもあの年の演技として、彼のビル・ザ・ブッチャーが皆の脳裏に焼き付くような、印象的なものだったことは誰も否定できないだろう。

その後彼は俳優業に一応復帰し、出演作を注意深く選びながら今まで来た。そして「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」「リンカーン」の2本で再びアカデミー賞主演男優賞に輝いている。アカデミー賞の主演男優賞を3回獲っている俳優は前代未聞で、彼はすでに記録を作っているわけだが、私は彼がキャサリン・ヘップバーンの記録(受賞4回)をいずれは抜いて、今後誰にも抜かれない記録を作る(5回受賞)と思って疑わなかった。そして、彼がポール・トーマス・アンダーソンの新作に主演するという情報を得た去年、これはほぼ確信に変わった。主演男優賞4回目の受賞は記念すべき第90回アカデミー賞で決まりだ!

Phantom Thread をまだ見ることができていない私は、この作品がどのくらい出来が良く、一般受けする内容かを知らない。しかし聞こえてくる評価はそこまで芳しくない。アカデミー賞の主演男優賞にノミネートされるのはたったの5人。天下のDDLをもってしても、評判の良くない作品でノミネートされるほど簡単ではない。私は今月ずっと、祈るような思いで前哨戦を見てきたが、一番大事なSAG(俳優協会)賞のノミネートを逃した時には絶望的な気持ちになった。DDLが役者生命最後の作品で、アカデミー賞にノミネートされないかもしれないのだ。

ダニエル・デイ=ルイスの引退が、私にとって耐えられないのは、私が彼の大ファンであるからというだけでなく、彼の存在が私のライフワークであるアカデミー賞と密接に関わっているからだ。私は、彼がきっかけでアカデミー賞にはまった。彼に会いたい、アカデミー賞に出席したい、が目標で、映画業界に入った。私にとって彼の演技は誰よりも素晴らしいものであり、彼は演技をするたびにノミネートされるものだと信じてきた。彼が新作に出るということは再び大好きなアカデミー賞で彼の姿を見られることを意味し、今年もそれだけを楽しみに今までやってきたのだ。だから、撮影の真っただ中に突然発表された彼の引退は、大げさに言えば私の人生そのものがいったんここでストップするような感覚で、これからの指針をなくしたような気になるのだ。

私の今の最大の恐怖は、彼が今年のオスカーにノミネートされないこと、つまり最後のチャンスである3月4日のアカデミー賞で、彼の姿を目撃できないことである。大好きなライフワークであるアカデミー賞だが、今回彼がノミネートをされなかったら、来年からのオスカーを同じ気持ちで見ることができるだろうか。私にとってダニエル・デイ=ルイスは、オスカーそのものであり、私の映画人生なのである。

2017年9月18日月曜日

トロント映画祭観客賞の結果について思ったこと

今年もオスカーの季節が近づいて参りました。例によって、最初のゴングを鳴らすのは秋の一連の映画祭。ヴェネツィアから始まり、テルライド、トロントと続く流れの中で、この秋の注目作が浮上してくるのですが、今年はちょっと異質で読めない。

毎年だいたいトロント映画祭には参加するのですが、今年はお休みしてヴェネツィアのみ、行ってまいりました。様々な弊害により、見たい映画を見られず、去年とは打って変わって不作のヴェネツィア。なんだかなあと思う中で金獅子に輝いたのは、一番見たくて見られなかったギレルモ・デル・トロのShape of Water。サリー・ホーキンスがすごい演技をしていると話題で、それだけでも確認したかったのですが、実際映画もとても良いらしい。これは東京国際映画祭でも上映されるので、そこで見逃さないようにしないとです。

で、こちらのShape of Water がオスカーにおける重要なポジションにいち早く乗ったことは間違いがないのですが、トロントでも評判が良かったようなので、私はこれが観客賞を獲るものと思っておりました。が、結果的に受賞したのは全然違うエンターテインメント映画 Three Billboards Outside Ebbing, Missouri。 正直ものすごく意外な結果でした。

こちらの作品、ヴェネツィアでも上映され、コンペ部門で脚本賞を獲りました。私もこれは見てきたのですが、なんというか、ポリティカリーインコレクトぎりぎりの(というかどう考えてもインコレクト)なセリフもたくさんあったり、主人公の行動や人間性が全然善人じゃなかったり、もちろんこれは問題提起の意味で誇張されている部分が大きいのですが、なんとも言えない気持ちになる映画で。今までに観客賞を獲ってきた「スラムドッグミリオネア」「英国王のスピーチ」なんかと比べると、まあまっすぐ飛んでこないツーシームみたいな作品なんです。今までに見たことのないぶっ飛んだ内容と、演技派揃いのキャスティングで、相当面白いことは間違いないけど。トロントの観客賞と言えば、オスカーでどれだけ本線に残るかのポジショニングを固める意味で非常に重要な位置づけとみなされている昨今、今年の結果は本当に意外で、先が読めなくなりました。しかも次点がポップでスキャンダラスな I, Tonya。こちらは、リレハンメルオリンピック直前のナンシー・ケリガン殴打事件で有名になったトーニャ・ハーディングの人生を、彼女の視点から描いた作品で、直球勝負の感動ものからは程遠い(はず)。これまたあの頃フィギュアスケートに夢中だった年代の私にはドンピシャな作品なのですが、ジャンル的にもトロントで次点になるというのは想定外でした。ま、I, Tonya については未見なので、もしかしたらすごく感動する作品になってるかもしれないけどね。マーゴ・ロビーはかなりの力演らしい。いずれにしても、この2作品がトップ2に輝いたのは本当に想定外で、個人的にこの辺かしらと思っていた、サンダンスで絶賛されたMudbound 辺りが獲るよりは、ずっと面白い結果だったかな、と思います。

これらの作品は今後続々と全米公開されていくわけで、その状況を見守らないとまだまだなんとも言えないわけですが、とりあえず幕開けは波乱で始まった印象の今年の映画祭シーズン。フランシス・マクドーマンドもサリー・ホーキンスもスタジオの強力プッシュがあるだろうことは織り込み済みだけど、混戦と言われる今年の主演女優賞、あとはどなたが食い込んでくるのでしょうか。

2016年8月1日月曜日

乙女心をくすぐる秀作ブルックリン

昨日友人のジェーン・スーのトークイベントに顔を出した際に、このブログの放置っぷりに対して叱責をされ、もう2年くらい書いてないなと思ってログインしてみたら、今年の5月に一回書いてるじゃん!本当に微塵も覚えてないことを鑑みると、酔っぱらって書いたのだと思います。反省。でも、Paterson は今年見た作品の中で暫定一位なので、とりあえず書いておいて良かった。アメリカは年末公開決定したそうです。アダム・ドライバーがノミネートされるかどうかは対抗馬がどうなるかのみにかかっておりますが、アダム・ドライバーは今年スコセッシの「沈黙」もあるし、もしかしたらもしかしちゃうんじゃないの?と密かに期待を寄せております。アダム、頑張れ!

さて、Paterson に続いて、今年は心から好きと思える作品がもう一本。今年のオスカー作品賞にノミネートされていた小品、「ブルックリン」です。シアーシャ・ローナンが素晴らしい。「つぐない」の時以来の名演です。彼女はいつかオスカー獲るだろうなあ。30代くらいかしら。

話の内容は、単純なのです。アイルランドでくすぶっている不遇な女の子が、羽ばたくために新天地アメリカに行くけど、そこには家族も友達もいなくて、寂しくて辛くて泣いてしまうような生活を送っている。でも素敵な男の子に出会って、自分の場所を見つけて幸せになってきたなと思ったら、今度は故郷の訃報でアイルランドに戻ることになる。そこには昔とはまた違う世界が待っていて、どちらの故郷を選ぶべきか、揺れる若い女の子の話。なんだかね~、自分とはひとつも共通点ないんだけど、気持ちがわかっちゃうタイプの作品なのよ。それはひとえにこのシアーシャ・ローナンの名演のおかげなんだろうけど。いや~、久々に胸が苦しくなるような素敵な映画を見ることができました。

ジム・ブロードベントにジュリー・ウォルターズと、往年の名優もさることながら、今回この作品でいい味を出しているのが、今売れに売れているドーナル・グリーソン。今年はエクス・マキナという名作も公開され、レヴェナントやスターウォーズと、最近の話題作で出てないものはないんじゃないかと思うくらいの若手有望株。お父さんであるブレンダン・グリーソンよりも若干いい男風なのがまた追い風なんでしょう。彼もオスカー俳優になる可能性が高いので、今後も要注目です。

昨日のウルフの訃報がショック過ぎて、ブルックリンのこと書いてる場合じゃないなと思いつつ、やはり思ったことは早めに書き留めておかないと忘れてしまうので、とりあえず書きました。今週末はいよいよオリンピック開催。フェルナンド・メイレレスが総合演出です。ブラジル人として一番オスカーに近い存在のメイレレス。私はウォルター・サレスよりもメイレレス派です。開会式に期待しましょう。

2016年5月21日土曜日

Paterson

久々のブログです。

っていうか、最後に書いたのがいつか見たら2014年?ちょっと空きすぎですよね。
なんらかの理由で、ブログ書く気にならなかったのだと思います。ごめんなさい。

で、本題。15年位前に、ゴーストドッグという映画を見ました。ジム・ジャームッシュの作品です。

すごく感銘を受けて、なんだか得した気分になった映画でした。

それ以降もジャームッシュは数本映画を作りましたが、なぜか見ていなかった。その上での今回の新作PATERSON。 思った以上に感動し、ここにつづらなくてはいられなくなりました。

この作品、ニュージャージー州のパターソンというところでバスの運転手をしている男を主人公にしています。その男は同時に、詩人です。毎日の何気ない出来事を、詩にして自分だけの秘密のノートに残している。奥さんは彼の才能に気づいていて、いつか出版するために、コピーを取っておけと毎日のように助言している。でも彼(名前は街と同じパターソン)は、それをせず、手書きのノートだけを残している。ほとんど変わらぬ毎日が、突然変わるのが、その日記が愛犬にボロボロにされたときなのですが、それでもパターソンは取り乱すことなく、おそらくそれまでと同じ日常を過ごします。

ここまでだと、なんだか救いのないアート映画なのですが、そうならないのがジャームッシュ。そこからの展開が彼の主張であり、素晴らしいのです!この映画には永瀬正敏さんが5分くらいものすごく効果的に出演されているのですが、そこで彼が語るセリフがすべてなのです。

この映画が何等かの賞を取るかは私にはわかりません。でも、日常を描いた作品がこれだけ観客の心をつかむ時点で、もうすでに秀作なのです。

ジャームッシュ、今後どれだけ作品を取ってくれるかわかりませんが、私は本当に楽しみにしています。ゴーストドッグ、パターソンの流れをくむ良作を、これからもぜひ撮ってください。よろしくお願いいたします!!!!

2014年5月24日土曜日

驚異的な運と実力を持つ女優:ヒラリー・スワンク 【ネタばれ注意】!!!

カンヌ映画祭の結果はまだ出ておりませんが、カンヌ関連で頭から離れない女優がいるので時差ぼけついでに書き留めておきます。

彼女の名は、ヒラリー・スワンク。オスカーファンにとっては、無視することのできない女優です。なぜって彼女、今までに2回しかノミネートされていないのに、2回とも主演女優賞を獲っているのです。つまり受賞率100%。2回以上獲ってる俳優で、こんな人ほかにいるのかしら?少なくとも私が生きている時代には居ないはず。

さて、このヒラリーですが、あんまりしょっちゅう映画に出る女優ではありません。そして、受賞率は100%でも、作品のヒット率は一桁なんじゃないかと思うほど、どうでも良い映画にもしばしば出ちゃう女優です。よって、知名度も高くないし人気もない。美人でもない。でもね、まあ映画を見ると、ため息つくほど演技が上手いんだわこれが。

今回のカンヌでは、私の知る限り彼女が出ている映画は2本あり、ひとつは要介護の難病患者役。「最強のふたり」を狙ったんだろうな、と言うような内容の作品の、病人の方の役で、まあこの難病演技が真に迫っていて本当に上手い(らしい)。もうひとつは、精神を病んでしまった3人の女性を目的地まで送り届ける、どちらかと言うと介護をする方の役柄で、しっかりした31歳の独り者の女の役なんだけど、これがもう、地味なんだけどすんげぇ~上手い。こっちの映画はちゃんと見ました。


この作品 THE HOMESMAN は、トミー・リー・ジョーンズ監督で、開拓時代のアメリカ西部が舞台。さまざまな理由で精神を病んでしまった3人の主婦を、療養するために東部に送り届ける話なんだけど、本来男の仕事であるこの仕事を、31歳独身女のヒラリーが買って出る。砂漠を横断して行く途中には、原住民や野獣などに襲われる危険が伴う。でも彼女には守るべき家族もないし、男は頼りにならないしってわけで彼女が立ち向かっていくわけです。

彼女は独り者なんだけど家も土地も家畜も持ってて、料理も上手くて家事も出来る。精神を病んだ主婦達への優しさも人一倍あり、彼女達を治してあげないと、と言う責任感もある。毎日神様にお祈りを捧げ、絵に描いたような模範的な「良い人」。なんだけど、なぜか誰も彼女を娶ろうとしない。まじめで素直な彼女は、近所の独身男性を夕食に誘い、美味しいフライドチキンを作ってごちそうします。彼は喜んで、お礼に自分の作ったチーズを差出し、彼女はそれを喜んで受け取り、二人仲良くそれを食べます。すると彼女は唐突に切り出すのです。「あなたの財産と私の財産を合わせたら、今よりもっと良い暮らしを出来る。私は料理が出来るし、子供も出来ればなおさら良い。結婚しましょうよ。」軽く食事の招待を受けに来ただけの彼は驚いて言う。「君と結婚?あり得ない。君みたいに威張るやつは嫌だし、俺はここでの仕事が一段落ついたら東部に嫁を探しに行って、かわいい嫁を連れて来るんだ。あんたは良い人だけど、結婚なんてしたくないよ。」そして彼は翌日、彼女から夜逃げするかの如く、東部に引き上げて行ってしまいます。

こんな一連のことがあった後、彼女は前出の任務を担って旅に出ることになるのですが、カタブツの彼女の痛い演技が上手すぎて、彼女に同情せずにはいられない。不器用で、おそらく男性経験がなく、神様に忠実に善行を行って生きていれば、良いことがあるはずなのになぜ?と言う気持ちが、その演技からひしひしと伝わってきて、強烈過ぎて打たれました。

この映画自体かなり強烈で、進むにつれてどんどん変な方向に進み、やがては衝撃的な展開をしていくんだけど、映画祭での評判はあんまり良くなかったみたい。私にとっては相当心に残る良い作品で、ヘンテコな部分含めていつまでも語りたくなるような作品でした。でもそんな感じだから、日本で配給されるかどうかは謎。商業的な可能性はまったく感じない映画でしたが、どこかの会社が放映権だけでも買ってくれて、WOWOW辺りで放映してくれたらいいな、と心から思っています。

2014年4月22日火曜日

エマ・トンプソンがノミネートされなかった理由

みなさん今晩は。大変ご無沙汰しております。前回エントリー、確認したら1カ月以上前でした。何を隠そう、オスカーの話題と言うのは季節ものでありまして、12月~3月の4か月を過ぎると、途端に書くことがなくなるんだな。それに加え、今シーズン最後のスキーで右手の小指を骨折すると言う失態により、思うようにタイプが出来なかったこの1カ月。こういう時こそ、人差し指一本スマホでアップするべきなんでしょうな。

さて、先日ようやく、「ウォルトディズニーとの約束」なる映画を見てきました。この作品、トム・ハンクスとエマ・トンプソンと言う、オスカーがこよなく愛する二人が主演でディズニー社の大親分ウォルト・ディズニーその人が題材の、絶対にオスカー取りたいんです丸出しにも関わらず、見事にオスカーから無視されてしまった作品。何が嫌われたのか、気になってしょうがなかったんです。私としては、このオスカーシーズンに一番期待してた作品の一本だったから。どんだけ出来が悪いんだろうと見に行ったら、とても良い作品でした。

思うに、今回の惨敗は、題材と実際の作品の大きすぎるギャップに尽きると思う。メリーポピンズが出来るまでの秘話、って言われて、トム・ハンクスとエマ・トンプソンと言う顔ぶれを見たら、なんだか陽気で楽しいコメディを連想するじゃないですか。ふたを開けてみると、ものすごく重いんですこの映画。要は、幼少期の悲しい思い出=トラウマに捕われた初老の女がやっと心を開くことを学ぶ話。期待にこたえてくれなかったお父さんへの抑えられない愛情と相反する恨みを乗り越えて、やっと彼を肯定出来た時に彼女は自由になる、って話なんだけど、予告からも、題材からもその暗さは全く想定できなくて、ゆえに見に行く時に期待するものと与えられたもののギャップに、観客は戸惑うわけです。良い話だし、作品自体は悪くないので、見た後の不快感はないのだけれど、映画って、何を期待して見に行くかって言うのが、既にその作品の評価の半分くらいを決めてしまうものなんですよね。この作品を見ながら、「あー、なるほどそういうことね~」と残念になりました。

その映画に何を期待するのかは、往々にしてその作品がどのように宣伝されているか、に左右されるもので、騙しの宣伝によって「思い込み」を誘導され、見終わった後に「すごいアクション映画って宣伝だったけどこれドラマじゃん!」と言うような、完全に騙されたと嫌な気持ちになるのは良くある話。「ウォルト・ディズニーの約束」に関して言うと、それとはちょっと違って、これはもう題材とキャスティングで既にこの話には無理があると言うか。トム・ハンクスもエマ・トンプソンもミスキャストなわけではなくて、二人ともとてもはまっているのです。ただ、この二人と言うことで観客はデフォルトとして「コミカルな映画」を期待してしまい、そこに来て題材がメリーポピンズと言うだけで、もう内容が暗いと言うことは許されない構造になっているので、宣伝がその作品の内容そのままを伝えていたとしても、観客はまさかこの作品が重い作品とは思わないわけです。

アカデミー会員の皆様も、この作品で幸せな気分になろう、と思って見に行ったら、切ない気持にさせられてしまって、なんだか腑に落ちない。消化不良な感覚になっちゃったから、満足感を得られずに、票が集まらなかったんじゃないかな。ちょっと気の毒に思いました。

にしてもエマ・トンプソン、20年前と印象が全然変わらないのはなんででしょう。彼女は92年度の「ハワーズエンド」で各賞を総なめにした末にオスカー主演女優賞を受賞していますが、私はその翌年の「日の名残り」が彼女の最高傑作だと思っています。見てない方は、ぜひご覧あれ。


2014年3月18日火曜日

日本文化に浸る週末

オスカー無事終了と言うことで、大阪に行って参りました。

大阪市役所らしい


目的はこれ、春場所観戦!!!



オスカーほどではないけれど、スポーツ観戦大好きです。
特に相撲は、子供の頃から大好き。今回は、勢と遠藤の活躍を楽しみに、数ヶ月前からチケットを取って、わざわざ大阪まで遠征してまいりました。

幕内土俵入り

相撲の結果は、特に番狂わせもなく、両横綱も遠藤も勢もその時までは全勝だった大砂嵐も勝ち、まあ楽しかったけどもうちょっとドラマが欲しかった結果に終わり。

その後、夜ごはんをどこで食べるか迷った挙句、友達に教わった天満と言う地区に行き、焼肉を頂くことにいたしました。

行列のできる店「肉五郎」運よく入れました

旅行先で食べるものは美味しくなくちゃ嫌!ということで、行く前に何人かにヒアリングをし、「大阪で焼肉を食べるならホルモンだよ」と言う意見を多く頂いたので、通常あんまりホルモン得意じゃないんだけど、挑戦することに。何を頼んで良いのか分からないので、ホルモン盛りなるものを頼みました。5種類くらいの部位が盛られて一皿980円。食べたら美味しい!!これにハラミ2人前と、サワー2杯×二人分と、サラダ2種類、キムチを頼んだらもうお腹いっぱい。大満足でお会計をすると、全部で5400円でした。

全部で5400円だよ!一人分じゃないよ!

大阪の懐の深さを感じつつ、友達からの「天満は一軒でやめてはいけない。かならず数件ははしごすること」と言う言葉を思い出し、お向かいにあるお寿司屋さんで数貫つまみながらお酒を飲んで次の動きを決めることに。〆の一品は食べてこなかったからね。お腹一杯だけど、ご飯ものちょっとなら入るでしょう。

ところが、お寿司屋さんに行くと、今日は仕入れを間違えて、もうネタとシャリが終わってしまったという。大してお腹がすいていなかった私たちは、じゃあちょっとしたおつまみだけ頂きますと言い、焼酎を注文して居座ることに。

これが長い夜の始まりだった。。。

大阪は、皆さん気さくで話しやすい。「どこから来たの?」から始まり、隣に座っていたおばさんとすっかり仲良くなった時には、私たちも焼酎3杯くらい飲んでいたかな。そのうち、お店のお母さんがサービスでいろんな品を出してくれて、すっかりそこに居ついてしまいました。そこのお母さんは栃木出身、最初に話しかけてきたおばさんも長崎出身で、土地の人じゃなかったのをいいことに、話はどんどん文化の違いや昔の苦労話へと発展し。その頃には私と友人はすっかり出来あがってしまっておりました。

そこへ、おばさんの旦那さん、個人タクシーを運転する、ちゃきちゃきの大阪人のおじさんが参加し、もう完全に新橋の飲み屋ムードに。おじさんどんどんいろんなものを注文し、食べろ食べろと勧めるもんだから、私たちお腹いっぱいなの忘れて結局沢山食べちゃいました。

手作りクワイチップス。絶品!

牡蠣バター

牡蠣フライ

のど黒の煮つけ

二人の馴れ初めから、方言の指導まで、いろんなことを話してすごく楽しい夜を過ごしたのだけど、ひとつとっても印象的だったこと。それは、65歳のおじさんに、「今ホルモン食べてきたんだ~。美味しかった!」と言った時のこと。ホルモン=大阪名物と思っていた私に彼は、「ホルモンなんて、食べもんやない。放るもんや。俺らの年代は、肉と言ったら牛肉しか食べへん」と言ったのです。根深い歴史が潜むその発言に、大阪の、全然違う一面を垣間見た気がしました。おじさんすごく良い人で、そのあと私たちをホテルまで送ってくれて、本当に楽しいひと時を過ごしたからこそ、なんだかすごく複雑な気持ちになる一言で。これが現実なんだろうなあ。

結局この店のお会計は8200円。ほとんど食べ物注文してない二軒目が一軒目よりだいぶ高いって、どんだけ飲んだんだって話ですが(注:上の写真はすべてお隣さんからのおすそ分けなので、払ってません)、翌朝起きると頭は痛いわ気持ち悪いわで、結局何も出来ぬまま、新幹線に乗って帰京しました。

いろいろと勉強になり、楽しかった大阪旅行。また行こうっと。